(ちひろ 元気でね また会おうね 理沙)
千尋 千尋 もうすぐだよ
やっぱり田舎ね 買い物は隣町に行くしかなさそうね
住んで都にするしかないさ
ほら あれ小学校だよ 千尋 新しい学校だよ
結構きれいな学校じゃない
前の方がいいもん
あ ああ お母さん お花しおれてっちゃった
あなたずうっと握り締めるんだもの
おうちについたら水切りすれば大丈夫よ
初めてもらった花束が お別れの花束なんて悲しい
あら この前のお誕生日にバラの花をもらったじゃない
一本ね 一本じゃ花束って言えないわ
カードが落ちたわ 窓開けるわよ
もうしゃんとしてちょうだい 今日は忙しいんだから
あれ 道を間違えたかな おかしいな
あそこじゃない ほら
あの隅の青い家でしょ
あれだ
一本下の道を来ちゃったんだな
このまま行っていけるのかな
やめてよ そうやっていつも迷っちゃうんだから
ちょっとだけ ねっ
あのうちみたいの何
石のほこら 神様のおうちよ
おとうさん 大丈夫
まかせとけ この車は四駆だぞ
千尋 座ってなさい
なあに この建物
門みたいだね
あなた もどりましょう あなた
千尋
もぅ
何だ モルタル製か
結構新しい建物だよ
風を吸込んでる
なぁに
ちょっと行ってみない
むこうへ抜けられるんだ
ここいやだ 戻ろうお とうさん
なーんだ 恐がりだな千尋は
ねっ ちょっとだけ
引越センターのトラックが来ちゃうわよ
平気だよ カギは渡してあるし 全部やってくれるんだろ
そりゃそうだけど
いやだ わたし行かないよ
戻ろうよ おとうさん
おいで 平気だよ
わたし行かない
千尋は車の中で待ってなさい
おかあさーん
まってぇーっ
足下気をつけな
千尋 そんなにくっつかないで 歩きにくいわ
ここどこ
ほら 聞こえる
電車の音
案外 駅が近いのかもしれないね
いこう すぐわかるさ
こんなとこに家がある
やっぱり間違いないな テーマパークの残骸だよ これ
90年頃にあっちこっちでたくさん計画されてさ
バブルがはじけてみんな潰れちゃったんだ
これもその一つだよ きっと
まだいくの おとうさん もう帰ろうよぅ
おかあさん あの建物うなってるよ
風鳴りでしょ 気持ちいいとこねー
車の中のサンドイッチ持ってくれば良かった
川を作ろうとしたんだねー
なんか匂わない
ほら うまそうな匂いがする
あら ほんとね
案外まだやってるのかもしれないよ ここ
千尋 はやくしなさい
まーってー
こっちだ
あきれた これ全部 食べ物屋よ
誰もいないねー
あそこだ
こっち こっち
わぁー すごいわねー
すみませーん どなたかいませんかー
千尋もおいで おいしそうよ
すいませー
いいわよ そのうち来たらお金払えばいいんだから
そうだな そっちにいいやつが
これなんていう鳥かしら
おいしい 千尋 すっごくおいしいよ
いらない ねぇ帰ろ お店の人に 怒られるよ
大丈夫 お父さんがついてるんだから
カードも財布も持ってるし
千尋も食べな 骨まで 柔らかいよ
辛子
ありがと
おかあさん おとうさん
電車だ
ここへ来てはいけない すぐ戻れ
じきに夜になる その前に早く戻れ
もう明かりが入った 急いで
私が時間を稼ぐ 川の向こうへ走れ
なによあいつ
おとうさーん おとうさん帰ろ
帰ろう おとうさーん
うそ
夢だ 夢だ
さめろさめろ さめろ
さめてぇっ
これはゆめだ ゆめだ
みんな消えろ 消えろ 消えろ
透けてる
夢だ 絶対夢だ
怖がるな 私はそなたの味方だ
いやっ やっ やっっ
口を開けて これを早
この世界のものを食べないとそなたは消えてしまう
いやっ
大丈夫 食べても豚 にはならない
噛んで飲みなさい
いい子だ もう大丈夫
触ってごらん
さわれる
ね さ おいで
おとうさんとおかあさんは
どこ 豚なんかになってないよね
今は無理だけど必ず会えるよ
静かに
そなたを捜しているのだ 時間がない 走ろう
立てない どうしよう 力が入んない
落ち着いて 深く息を吸ってごらん
そなたの内なる風と水の名において 解き放て
立って
橋を渡る間 息をしてはいけないよ
ちょっとでも吸ったり吐いたりすると
術が解けて店の者に気づかれてしまう
こわい
心を鎮めて
いらっしゃいませ
お早いお着きで
いらっしゃいませ
いらっしゃいませ
所用からの戻りだ
へい お戻りくださいませ
深く吸って
止めて
いらっしゃい お待ちしてましたよ
しっかり もう少し
ハク様ぁー 何処へ行っておったー
ひっ 人か
走れ
ハク様 ハク様
ええい匂わぬか 人が入り込んだぞ
臭いぞ 臭いぞ
勘づかれたな
ごめん 私 息しちゃった
いや 千尋はよく頑張った
これからどうするか離すからよくお聞き
ここにいては必ず見つかる
私が行って誤魔化すから
そのすきに千尋はここを抜け出して
いや 行かないで
ここにいて お願い
この世界で生き延びるためにはそうするしかないんだ
ご両親を助けるためにも
やっぱり豚になったの夢じゃないんだ
じっとして
騒ぎが静まったら
裏のくぐり戸から出られる
外の階段を一番下まで降りるんだ
そこにボイラー室の入口がある
火を焚くところだ
中に釜爺という人がいるから
釜爺に会うんだ
釜爺
その人にここで働きたいと頼むんだ
断られても 粘るんだよ
ここでは仕事を持たない者は
湯婆婆に動物にされてしまう
湯婆婆 って
会えばすぐに分かる
ここを支配している魔女だ
嫌だとか 帰りたいとか言わせるように仕向けてくるけど
働きたいとだけ言うんだ辛くても 耐えて機会を待つんだよ
そうすれば 湯婆婆には手は出せない
うん
ハク様ぁー ハク様ー
いかなきゃ 忘れないで 私は千尋の味方だからね
どうして私の名を知ってるの
そなたの小さいときから知っている
私の名は――ハクだ
ハクはここにいるぞ
ハク様 湯婆婆さまが…
分かっている そのことで外へ出ていた
あの すみません
あ あのー あの 釜爺さんですか
あの ハクという人に言われてきました ここで働かせてください
ええい こんなに一度に
チビども 仕事だー
わしゃあ 釜爺だ
風呂釜にこき使われとるじじいだ
チビども はやくせんか
あの ここで働かせてください
ええい 手は足りとる
そこら中ススだらけだからな
いくらでも代わりはおるわい
あっ どうするのこれ
ここにおいといていいの
手ぇ出すならしまいまでやれ
こらあー チビどもー ただのススにもどりてぇのか
あんたも気まぐれに手ぇ出して 人の仕事を取っちゃならね
働かなきゃな こいつらの魔法は消えちまうんだ
ここにあんたの仕事はねぇ 他を当たってくれ
なんだおまえたち 文句があるのか
仕事しろ 仕事
メシだよー なぁんだまたケンカしてんのー
よしなさいよもうー
うつわは
ちゃんと出しといてって言ってるのに
おお メシだー 休憩ー
うわ 人間がいちゃ やばいよ
さっき上で大騒ぎしてたんだよ
わしの 孫だ
まごォ
働きたいと言うんだが ここは手が足りとる
おめぇ 湯婆婆ンとこへ連れてってくれねえか
後は自分でやるだろ
やなこった あたいが殺されちまうよ
これでどうだ
イモリの黒焼き 上物だぞ
どのみち働くには湯婆婆と契約せにゃならん
自分で行って 運を試しな
チェッ そこの子 ついて来な
あんたネェ はいとかお世話になりますとか言えないの
あっ はいっ
どんくさいね はやくおいで
はい
靴なんか持ってどうすんのさ 靴下も
はいっ
あんた 釜爺にお礼言ったの 世話になったんだろ
ありがとうございました
グッドラック
湯婆婆は建物のてっぺんのその奥にいるんだ
もう一回乗り継ぐからね
はい
いくよ
い いらっしゃいませ
お客さま このエレベーターは上へは参りません
他をお探しください
到着でございます
右手のお座敷でございます
リン
はーい
なんか匂わぬか
人間だ おまえ人間くさいぞ
そーですかぁー
匂う匂う うまそうな匂いだ
おまえなんか隠しておるな
正直に申せ
この匂いでしょ
黒焼き くれぇーっ
やなこった お姉さま方に頼まれてんだよ
頼む ちょっとだけ せめて足一本
上へ行くお客さまー レバーをお引き下さーい
ノックもしないのかい
ま みっともない娘が来たもんだね
さぁ おいで
おいでーな
あのー ここで働かせてください
馬鹿なおしゃべりはやめてくれ
そんなひょろひょろに何が出来るのさ
ここはね 人間の来るところじゃないんだ
八百万の神様達が疲れをいやしに来るお湯屋なんだよ
それなのにおまえの親はなんだい
お客さまの食べ物を豚のように食い散らして
当然の報いさ
おまえも元の世界には戻れないよ
子豚にしてやろう ぇえ 石炭 という手もあるね
震えているね
でもまあ 良くここまでやってきたよ
誰かが親切に世話を焼いたんだね
誉めてやらなきゃ 誰だい それは 教えておくれな
ここで働かせてください
まァだそれを言うのかい
ここで働きたいんです
だァーーーまァーーーれェーーー
なんであたしがおまえを雇わなきゃならないんだい
見るからにグズで 甘ったれで泣き虫で
頭の悪い小娘に仕事なんかあるもんかね
お断りだね これ以上穀潰しを増やしてどうしようっていうんだい
それとも 一番つらーーいきつーーい仕事を死ぬまでやらせてやろうかぁ
やめなさいどうしたの坊や
今すぐ行くからいい子でいなさいね
まだいたのかい さっさと出て行きな!
ここで働きたいんです!
大きな声を出すんじゃない
あー ちょっと待ちなさい ね ねぇ
いい子だから ほぉらほら
働かせてください
わかったから静かにしておくれ
おおぉお よ しよし
契約書だよ
そこに名前を書きな 働かせてやる
その代わり嫌だとか 帰りたいとか言ったら
すぐ子豚にしてやるからね
あの 名前ってここですか?
そうだよもぅ ぐずぐずしないでさっさと書きな
まったく
つまらない誓いをたてちまったもんだよ
働きたい者には仕事をやるだなんて
書いたかい
はい
フン 千尋というのかい
はい
贅沢な名だねぇ
今からおまえの名前は千だ
いいかい 千だよ
分かったら返事をするんだ 千
は はいっ
お呼びですか
今日からその子が働くよ 世話をしな
はい 名はなんという
え ち ぁ 千です
では千 来なさい
ハク あの
無駄口をきくな 私のことは ハク様と呼べ
いくら湯婆婆さまのおっしゃりでも それは
人間は困ります
既に契約されたのだ
なんと
よろしくお願いします
あたしらのとこには寄こさないどくれ
人臭くてかなわんわい
ここの物を三日も食べれば匂いは消えよう
それで使い物にならなければ
焼こうが 煮ようが好きにするがいい
仕事に戻れ リンは何処だ
えぇーっ あたいに押しつけんのかよぅ
手下をほしがっていたな
そうそう リンが適役だぞ
千 行け
はいっ
やってらんねぇよ 埋め合わせはしてもらうからね
はよいけ
来いよ
おまえ うまくやったなぁ
おまえトロイからさ 心配してたんだ
油断するなよ わかんないことはおれに聞け な
うん
ん どうした
足がふらふらするの
ここがおれたちの部屋だよ
食って寝りゃ元気になるさ
腹かけ 自分で洗うんだよ
袴
チビだからなぁ でかいな
リンさん あの
なに?
ここにハクっていうひと二人いるの
二人?
あんなの二人もいたらたまんないよ
だめか
あいつは湯婆婆の手先だから気をつけな
おかしいな あああ あったあった
おい どうしたんだよ しっかりしろよ
うるさいなー なんだよ リン
気持ち悪いんだって 新入りだよ
橋のところへおいで
お父さんとお母さんに会わせてあげる
お父さん お母さん 私よ
あっ セ 千よ
お父さん お母さん
病気かな ケガしてる
いや おなかがいっぱいで寝ているんだよ
人間だったことは今は忘れている
お父さん お母さんきっと助けてあげるから
あんまり太っちゃだめだよ 食べられちゃうからね
これは隠しておきな
あっ 捨てられたかと思ってた
帰るときにいるだろう
これ お別れにもらったカード
ちひろ
千尋って 私の名だわ
湯婆婆は相手の名を奪って支配するんだ
いつもは千でいて
本当の名前はしっかり隠しておくんだよ
私 もう取られかけてた
千になりかけてたもん
名を奪われると 帰り道が分からなくなるんだよ
私はどうしても思い出せないんだ
ハクの本当の名前
でも不思議だね 千尋のことは覚えていた
お食べ ご飯を食べてなかったろ
食べたくない
千尋の元気が出るように 呪いをかけて作ったんだ
お食べ
一人で戻れるね
うん ハクありがとう 私がんばるね
うん
どこ行ってたんだよ 心配してたんだぞ
ごめんなさい
じゃまだねぇ
千 もっと力はいんないの
リンと千 今日から大湯番だ
えぇーっ あれは蛙の仕事だろ
上役の命令だ 骨身を惜しむなよ
あの そこ濡れませんか
千 早くしろよ
はい
ここ 開けときますね
リン 大湯だって
ほっとけ
ひでぇ ずーっと洗ってないぞ
ここの風呂はさ 汚しのお客専門なんだよ
こびりついてて取れやしねえ
リン 千 一番客が来ちまうぞ
はい 今すぐ
チッ 下いびりしやがって
一回 薬湯入れなきゃダメだ
千 番台行って札もらってきな
札
薬湯の札だよ
はぁーい リンさん 番台ってなに
ん なんだろうね なんか来たね
雨に紛れてろくでもないものが紛れ込んだかな
そんなもったいないことが出来るか
おはようございます
良くお休みになられましたか
春日様
はい 硫黄の上
いつまでいたって同じだ
戻れ戻れ
手でこすればいいんだ
はようございます
手を使え手を
でも あの
薬湯じゃないとダメだそうです
わからんやつだな
あっ ヨモギ湯ですね どーぞごゆっくり
はい 番台です
あっ はい
ありがとうございます
あー 違う
こら待て おい
どしたんだい
い いえ なんでもありません
なにか入り込んでるよ
人間ですか
それを調べるんだ 今日はハクがいないからね
へぇーずいぶんいいのくれたじゃん
これがさ 釜爺のとこへ行くんだ
混んでないからすぐ来るよきっと
これを引けばお湯が出る やってみな
千てほんとドジなー
うわ すごい色
こいつにはさ ミミズの干物が入ってんだ
こんだけ濁ってりゃこすらなくても同じだな
いっぱいになったらもう一回引きな 止まるから
もう放して大丈夫だよ
おれ朝飯取ってくんな
はい
いったぃ
あの お風呂まだなんです
わ こんなにたくさん
えっ 私にくれるの
あの それ そんなにいらない
だめよ ひとつでいいの
奥様
クサレ神だって
それも特大のオクサレさまです
まっすぐ橋へ向かってきます
お帰り下さい…
お帰り下さい お引き取り下さい お帰り下さい
うっ くっさいぃ
おかしいね クサレ神なんかの気配じゃなかったんだが
来ちまったものは仕方がない お迎えしな
こうなったら出来るだけはやく引き取ってもらうしかないよ
リンと千 湯婆婆様がお呼びだ
あ はいっ
いいかい おまえの初仕事だ これから来るお客を大湯で世話するんだよ
あの…
四の五の言うと 石炭にしちまうよ わかったね
み 見えました
おやめ お客さんに失礼だよ
ヨク オコヒクダサヒマシタ
え あ お金
千 千 早くお受け取りな
は はいっ
ナニ してるんだい 早く ご案内しな
ど どうぞ
え ちょっと待って
汚いね
笑いことではありません
あの子どうするかね
ほぉ 足し湯をする気だよ
汚い手で壁に触りおって
千に新しい札あげたのかい
まさか そんなもったいない
千 千 どこだ
リンさん
大丈夫か
釜爺にありったけのお湯出すように頼んできた
最高の薬湯奢ってくれるって
ありがとう
あの ここに刺みたいのが刺さってるの
刺
深くて取れないの
刺 刺だって
下に人数集めな
急ぎな
千とリン そのお客はオクサレ神ではないぞ
このロープをお使い
はい
しっかり持ってな
はい
ぐずぐずするんじゃないよ 女も力を合わせるんだ
結びました
湯屋一同 心を揃えて
砂金だ 砂金だ
静かにおし お客様がまだおいでなんだよ
千 お客様の邪魔だ そこを下りな
大戸を開けな お帰りだ
千 よくやったね 大儲けだよ
ありゃ名のある河の主だよ
みんなも千を見習いな
今日は一本つけるからね
さあ 取った砂金を全部出しな
食う かっぱらってきた
ありがとう
やれやれ
ハク いなかったね
またハクかよ
あいつ時々いなくなるんだよ
噂じゃさ 湯婆婆にやばいことやらされてんだって
そう
リン 消すよ
あ
街がある 海みたい
あたりまえじゃん 雨が降りゃ海くらいできるよ
俺いつかあの街に行くんだ
こんなとこ絶対やめてやる
砂金だ
お主 何者だ 客人ではないな
そこに入ってはいけないのだぞ
金だ 金だ
これわしにくれるのか
金を出せるのか
くれ
だれぞそこにおるのか
消灯時間はとうにすぎたぞ
兄役殿 俺は腹が減った 腹ペコだ
そ その声は
前金だ 取れ
わしは客だぞ 風呂にも入るぞ みんな起こせ
お父さんお母さん 河の神様からもらったお団子だよ
これを食べれば人間に戻れるよ きっと
お父さんお母さん どこ
お父さん
嫌な夢
リン
誰もいない
あ 本当に海になってる
ここから お父さんたちのとこ見えるんだ
釜爺がもう火を焚いてる
そんなに寝ちゃったのかな
お客様がお待ちだぞ もっと早くできんなのかよ そこ
生煮えでもなんでもいい どんどんお持ちしろ
千
リンさん
今起こしに行こうと思ったんだ 見な
本物の金だ もらったんだ
すげー気前のいい客が来たんだ
俺は腹ペコだ 全部持ってこい
その客さんって
千も来い 湯婆婆まだ寝てるから チャンスだぞ
あたし 釜爺のとこ行かなきゃ
今 釜爺のとこ行かないほうがいいぞ
たたき起こされて ものすごく不機嫌だから
リン もう一回行こう
ああ
お父さんお母さん 分からなかったらどうしよう
お父さんあんまり太ってたらいやだな
橋のとこで見た竜だ こっちへ来る
なんだろう 鳥じゃない
ハク しっかり こちよ
ハク
ハク
ハクね ハクでしょう
怪我してるの
あの紙の鳥は行ってしまったよ もう大丈夫だよ
湯婆婆のとこへ行くんだ
どうしよう 白が死んじゃう
それ さてはこの世に極まれる
お大尽様のおなりだよ
それ いらっしゃいませ
それ おねだり
おねだり…
お大尽様 お大尽様
くるよ
今度こそもらわなきゃ
いくらでも手から湧くんだって
お大尽様 こちらへもひとまきー
こら 何をする
上へ行くんです
だめだ だめだ
あっ 血だ
退け退け お客様のお通りだ
あのときはありがとうございます
何をしてる 早うど…
静まれ 静まれんか
下がれ下がれ
これはとんだご無礼をいたしました
なに分新米の人間の小娘でございまして
お前 なぜ笑う 笑ったな
めっそうもない
食らった
まったく なんってことだろうね
こいつの正体は顔なしだよ
そう か お な し
欲に駆られて とんでもない客を引き入れたもんだよ
あたしが行くまで 余計なことすんじゃないよ
敷物汚しちまって
お前たち ハクを片付けな もうその子は使いもんにならないよ
もう 坊はまたベッドで寝ないで
ああ ごめんごめん
いい子でおねんねしてたのにね
婆婆またお仕事があるの
いい子でおねんねしててね
痛い 放して
助けてくれて ありがとう
私急いで行かなくちゃならないの 放してくれる
お前病気うつしに来たんだな
おんもには悪いばい菌しかいないんだぞ
私 人間よ この世界じゃちょっと珍しいかもしれないけど
おんもは体に悪いんだぞ ここにいて坊とお遊びしろ
あなた病気なの
おんもに行くと病気になるから ここにいるんだ
こんなとこにいたほうが病気になるよ
あのね 私のとても大切な人が大怪我してるの
だからすぐ行かなきゃならないの
お願い 手を放して
行っては泣いちゃうぞ
坊が泣いたらすぐ婆婆が来て お前なんか殺しちゃうぞ
こんな手すぐ折っちゃうぞ
痛い痛い
ね 後で戻ってきて遊んであげるから
だめ 今遊ぶの
血 分かる 血
ハク
何すんの あっち行って
ハク ハクね しっかりして
静かにして ハク
あっち行って
だめ
血なんか平気だぞ 遊ばないと泣いちゃうぞ
待って ね いい子だから
坊と遊ばないと泣いちゃうぞ
お願い 待って
うるさいね 静かにしておくれ
あんたはちょっと太りすぎね
やっぱりちょっと透けるわね
婆婆
やれやれ お母さんとあたしの区別もつかないのかい
そのほうが少し動きやすいだろ
さてと お前たちは何がいいかな
このことは内緒だよ 誰かに喋るとお前の口が裂けるからね
あなたはだれ
湯婆婆の双子の姉さ
お前さんのおかげでここを見物できて 面白かったよ
さあ その竜を渡しな
ハクをどうするの ひどい怪我なの
そいつは妹の手先の泥棒竜だよ
私のところから大事な判子を盗み出した
ハクがそんなことしっこない 優しい人だもん
竜はみんな優しいよ 優しくて愚かだ
魔法の力を手に入れようとして 妹の弟子になるなんてね
この若者は欲深の妹のいいなりだ
さあ そこを退きな
どの道その竜はもう助からないよ
判子には守りの呪いがかけてあるからね
盗んだ者は死ぬようにと
いや だめ
なんだろうね この連中は
これお止め 部屋にお戻りな
あらら 油断したね
ハク あ
何事じやい
ハク
待ちなさい
ハク
苦しいの
こりゃいかん
ハク しっかり どうしよう 白が死んじゃう
体の中で何かが命を食い荒らしとる
体の中
強い魔法だ わしにゃどうにもならん
ハク これ河の神様がくれたお団子 効くかもしれない 食べて
ハク 口を開けて
ハク お願い 食べて
ほら 平気だよ
そりゃ ニガダンゴか
開けて いい子だから
大丈夫 飲み込んで
えんがちょ 千 えんがちょ
切った
お爺さん これ 湯婆婆のお姉さんの判子なの
銭婆の 魔女の契約印か
そりゃまた えらいものを
やっぱりハクだ
お爺さん ハクよ
ハク
ハク ハク
お爺さん ハク息してない
まだしとるがな 魔法の傷は油断できんが
これで少しは落ち着くといいんじゃが
ハクはな 千と同じように突然ここにやってきてな
魔法使いになりたいと言いおった
わしは反対したんだ 魔女の弟子なんぞろくなことがないってな
聞かないんだよ
もう帰るところはないと
とうとう湯婆婆の弟子になっちまった
そのうちどんどん顔色が悪くなるし
目つきばかりきつくなってな
釜爺さん わたしこれ 湯婆婆のお姉さんに返してくる
返して 謝って ハクを助けてくれるよう頼んでみる
お姉さんのいるところを教えて
銭婆のところへか
あの魔女は怖えーぞ
お願い
ハクは私を助けてくれたの
私 ハクを助けたい
行くにはな 行けるだろうが
帰りがな
待ちなさい
たしか ここだったか
みんな 私の靴と服 お願いね
千 ずいぶん探したんだぞ
リンさん
ハクじゃん なんかあったのか ここ
なんだそいつら
新しい友達なの ね
湯婆婆がかんかんになってお前のこと探してるぞ
気前がいいと思ってた客が顔なしって化けもんだったんだよ
湯婆婆は千が引き入れたって言うんだ
そうかもしれない
本当かよ
だって お客さんだと思ったから
どうすんだよ あいつも三人も呑んじゃったんだぞ
あったこれだ 千 あったぞ
爺さん 今忙しいんだよ
これが使える
電車の切符じゃん どこで手に入れたんだ こんなの
四十年前の使い残りだ
いいか 電車で六つ目の沼の底という駅だ
沼の底
そうだ とにかく六つ目だ
六つ目ね
間違えるなよ 昔は戻りの電車があったんだが
近頃は行きっぱなしだ
それでも行くかだ
うん 帰りは線路を歩いてくるからいい
湯婆婆はどうすんだよ
これから行く
ハク きっと戻ってくるから 死んじゃだめだよ
何がどうしたの
わからんか 愛だ 愛
ますます大きくなってるよ
いやだ あたい食われたくたい
来たよ
千か よかった
湯婆婆様ではもう抑えられんのだ
何もそんなに暴れなくても 千は来ますよ
千はどこだ 千を出せ
さあ 急げ
湯婆婆様 千です
遅い
お客様 千が来ましたよ ほんのちょっとお待ちくださいね
何をぐずぐずしてたんだい このままじゃ大損だ
あいつを煽てて 絞れるだけ金を絞り出せ
なんだい その汚い鼠は
え あの ご存知ないんですか
知るわけないだろ
おお いやだ さあ 行きな
ごゆっくり
千一人で大丈夫でしょうか
お前が代わるかい
これ 食うか うまいぞ
金を出そうか
千のほかには出してやらないことにしたんだ
こっちへおいで
千は何がほしいんだい 言ってごらん
あなたはどこから来たの
私すぐ行かなきゃならないとこがあるの
あなたは来たところへ帰ったほうがいいよ
私がほしいものは あなたには絶対出せない
おうちはどこなの お父さんやお母さん いるんでしょう
いやだ いやだ
寂しい 寂しい
おうちが分からないの
千ほしい 千ほしい
ほしがれ
私を食べる気
取れ 取れ
私を食べるなら その前にこれを食べて
本当はお父さんとお母さんにあげたかったんだけど あげるね
来た こっちだよ
呼んでどうすんだよ
あの人湯屋にいるからいけないの
あそこを出たほうがいいんだよ
だって どこつれてくんだよ
わかんないけど
わかんないって
ああ つい てくんぞ あいつ
こっから歩け
駅は行けばわかるって
ありがとう
必ず戻ってこいよ
うん
千 お前のことどん臭いって言ったけど 取り消すぞ
顔なし 千になにかしたら許さないからな
あれだ
あの 沼の底までお願いします
あなたも乗りたいの
あの この人もお願いします
お爺さん
ハク 気がついた
お爺さん 千はどこです
何があったのでしょう 教えてください
お前 何も覚えてないのか
切れ切れにしか思い出せません
闇の中で千尋が何度も私を呼びました
その声を頼りにもがいて 気がついたらここに寝ていました
そうか 千尋か
あの子は千尋というのか
いいな 愛の力だな
これっぱかしの金でどう埋め合わせするのさ
千の馬鹿がせっかくの儲けを不意にしちまって
で でも 千のおかげで俺たち助かったんです
お黙り
みんな自分でまいた種じゃないか
それなのに 勝手に逃げ出したんだよ
あの子は自分の親を見捨てたんだ
親豚は食べ頃だろ
ベーコンにでもハムにでもしちまいな
お待ちください
ハク様
なんだいお前 生きてたのかい
まだ分かりませんか 大切なものがすり替わったのに
ずいぶん生意気な口を利くね
いつからそんなに偉くなったんだい
坊
あ 坊
土くれだ
坊
どこにいるの
坊
出てきておくれ
坊
己 言え
あたしの坊をどこへやった
銭婆のところです
銭婆
なるほどね 性悪女目
それであたしに勝ったつもりかい
で どうするんだい
坊を連れ戻していきます
その代わり 千と両親を人間の世界へ戻してやってください
それでお前はどうなるんだい
その後 あたしに八つ裂きにされてもいいんかい
おはいり
失礼します
入るならさっさとお入り
おいで
みんなよく来たね
あの
まあ お座り
今お茶を入れるからね
銭婆さん これ ハクが盗んだものです お返しに来ました
お前 これがなんだか知ってるかい
いえ でも とっても大事なものだって
ハクの代わりに謝りに来ました ご免なさい
お前 これを持っててなんともなかったかい
あれ 守りの呪いが消えてるね
すいません あの判子についてた変な虫 あたしが踏み潰しちゃいました
踏み潰した
あんた その虫はね 妹が弟子を操るために竜の腹に忍び込ませた虫だよ
踏み潰した
さあ お座り
お前は顔なしだね お前もお座りな
あの この人たちを元に戻してあげてください
おや あんたたち魔法はとっくに切れてるだろ
戻りたかったら戻りな
あたしたち二人で一人前なのに 気が合わなくてね
ほら あの人ハイカラじゃないじゃない
魔女の双子なんて厄介のも元ね
お前を助けてあげたいけど あたしにはどうすることも出来ないよ
この世界の決まりだからね
両親のことも ボーイフレンドの竜のことも 自分でやるしかない
でも あの ヒントかなにかもらえませんか
ハクと私 ずっと前にあったことがあるみたいなんです
じゃ話は早いよ
一度あったことは忘れないものさ
思い出せないだけで
まあ 今夜は遅いから ゆっくりしていきな
おまえたち手伝ってくれるかい
ほれ 頑張って
そうそう うまいじゃないか 本当に助かるよ
魔法で作ったんじゃなにもならないからね
そこを潜らせて そう 二回続けるんだ
お婆ちゃん やっぱり帰る
だって こうしてる間にも 白が死んじゃうかもしれない
お父さんやお母さんが食べられちゃうかもしれない
まあ もうちょっとお待ち
さあ できたよ
髪留めにお使い
きれい
お守り みんなで紡いだ糸を編み込んであるからね
ありがとう
いいときに来たね
お客さんだよ 出ておくれ
はい
ハク
ハク
会いたかった 怪我は
もう大丈夫なの よかった
グッドタイミングね
お婆ちゃん ハク生きてた
白竜 あなたのしたことはもう咎めません
そのかわり その子をしっかり守るんだよ
さあ 坊やたち お帰りの時間だよ
また遊びにおいで
お前はここにいな あたしの手助けをしておくれ
お婆ちゃん
ありがとう 私行くね
大丈夫 あんたならやり遂げるよ
私の本当の名前は 千尋っていうんです
千尋 いい名だね
自分の名前を大事にね
はい
さあ お行き
うん
お婆ちゃん ありがとう さよなら
ハク 聞いて
お母さんから聞いたんで自分では覚えてなかったんだけど
私 小さいとき川に落ちたことがあるの
その川はもうマンションになって 埋められちゃったんだって
でも 今思い出したの
その川の名は その川はね
琥珀川
あなたの本当の名は 琥珀川
千尋 ありがとう
私の本当の名は ニギハヤミ コハクヌシだ
ニギハヤミ
ニギハヤミ コハクヌシ
すごい名前 神様みたい
私も思い出した 千尋が私の中に落ちたときのこと
靴を拾おうとしたんだね
そう 琥珀が私を浅瀬に運んでくれたのね
嬉しい
坊は連れて戻ってきたんだろうね
婆婆
坊 怪我はなかったかい ひどい目にあったね
坊 あなた一人で立てるようになったの
湯婆婆様 約束です
千尋と両親を人間の世界に戻してください
そう簡単にはいかないよ
世の中には決まりというものがあるんだ
うるさいよ
婆婆のケチ もうやめなよ
とても面白かったよ 坊
でででもさ これは決まりなんだよ
じゃないとのろいが解けないんだよ
千を泣かしたら婆婆嫌いなっちゃうからね
そ そんな
お婆ちゃん
お婆ちゃん
今 そっちへ行きます
掟のことはハクから聞きました
いい覚悟だ
これはお前の契約書だよ こっちへおいで
坊 すぐ終わるからね
大丈夫よ
この中からお前のお父さんとお母さんを見つけな
チャンスは一回だ
ぴたりと当てられたら お前たちは自由だよ
お婆ちゃんだめ ここにはお父さんもお母さんもいないもん
いない それがお前の答えかい
うん
大当たり
やった よっしゃ
みんなありがとう
行きな お前の勝ちだ 早く行っちまいな
お世話になりました
さよなら
ありがとう
またね
ハク
行こう
お父さんとお母さんは
先に行ってる
水がない
私はこの先には行けない
千尋は元来た道を辿ればいいんだ
でも決して振り向いちゃいけないよ トンネルを出るまではね
ハクは 白はどうするの
私は湯婆婆と話をつけて弟子をやめる
平気さ 本当の名を取り戻したから
元の世界に私も戻るよ
またどこかで会える
うん きっと
きっとよ
きっと
さあ 行きな 振り向かないで
千尋
なにしてんの 早く来なさい
お母さん お父さん
だめじゃない 急にいなくなっちゃ
行くよ
お母さん 何ともないの
引越しのトラック もう着いちゃったるわよ
千尋 早くおいで
足下気をつけな
千尋 そんなにくっつかないでよ 歩きにくいわ
出口だよ
あれ
なに
すげー あ
中もほこりだらけだ
いたずら
かな
だからいやだって言ったのよ
オーライオーライ 平気よ
千尋 行くよ
千尋 早くしなさい
♪ 呼(よ)んでいる 胸(むね)のどこか奥(おく)で ♪
♪ いつも心踊(こころおど)る 夢(ゆめ)を見(み)たい ♪
♪ 悲(かな)しみは 数(かぞ)えきれないけれど ♪
♪ その向(む)こうできっと あなたに会(あ)える ♪
♪ 繰(く)り返(かえ)すあやまちの そのたびひとは ♪
♪ ただ青(あお)い空(そら)の 青(あお)さを知(し)る ♪
♪ 果(は)てしなく 道(みち)は続(つづ)いて見(み)えるけれど ♪
♪ この両手(りょうて)は 光(ひかり)を抱(だ)ける ♪
♪ さよならのときの 静(しず)かな胸(むね) ♪
♪ ゼロ(ぜろ)になるからだが 耳(みみ)をすませる ♪
♪ 生(い)きている不思議(ふしぎ) 死(し)んでいく不思議(ふしぎ) ♪
♪ 花(はな)も風(かぜ)も街(まち)も みんなおなじ ♪
♪ ラララ…ホホホ…フフフ…ルルル… ♪
♪ 呼(よ)んでいる 胸(むね)のどこか奥(おく)で ♪
♪ いつも何度(なんど)でも 夢(ゆめ)を描(えが)こう ♪
♪ 悲(かな)しみの数(かず)を 言(い)い尽(つ)くすより ♪
♪ 同(おな)じくちびるで そっとうたおう ♪
♪ 閉(と)じていく思(おも)い出(で)の そのなかにいつも ♪
♪ 忘(わす)れたくない ささやきを聞(き)く ♪
♪ こなごなに砕(くだ)かれた 鏡(かがみ)の上(うえ)にも ♪
♪ 新(あたら)しい景色(けしき)が 映(うつ)される ♪
♪ はじまりの朝(あさ) 静(しず)かな窓(まど) ♪
♪ ゼロになるからだ充たされてゆけ ♪
♪ 海(うみ)の彼方(かなた)には もう探(さが)さない ♪
♪ 輝(かがや)くものは いつもここに ♪
♪ わたしのなかに 見(み)つけられたから ♪
♪ ラララ…ホホホ…フフフ…ルルル… ♪